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罪人は罰を受ける 
眠い・・・とにかく眠い。
仕事をしていても、食事をしていても、眠かった。
強烈な睡魔がここ数日、紫芙子を襲う。欠伸が止まらない。眼を開けていられない。
運転も危ない。信号待ちのわずかな時間でも眠りに入っていきそうだ。
通勤の電車の中では、眠り込んで乗り越したくらいだ。
「困ったな・・・」
来週から、3泊で韓国へ旅行に行く。このままの状態だと、韓国でも眠ってばかりになりそうだ。
寝不足?そんな筈はない。毎晩、起きていられずに9時半にはベッドの中だ。お陰で、
洗濯物が溜まる。独り暮らしなんて、するんじゃなかった。と毒づく。
眠りには、ストンと入ってしまう。一切の記憶がもぎ取られたかのように。その瞬間を
覚えていない。たっぷりと睡眠を貪ったのに、起きられない。起きても睡魔は変わらない。

何となくイヤな感じがする。もっと他に言い方があるのかも知れないが、「イヤな感じ」
が一番合う。けれど、深く考えている時間はない。仕事もしなくてはならない。パッキン
グも中途半端なままだ。いつも眠ってしまう。
たかが、3泊でも女の荷物は多い。男には考えられないような物が梱包される。
仕事中に、メモ用紙に書き出す。まだ、半分も入っていない。今回は、買い物がメインだ
から荷物は最小限にしたい。もうとっくに終っている筈なのにな。とつぶやく。
そうに考えている間も眠い。どうしたんだろう?だんだんと不安になってくる。

旅行は、無事に行けた。が、旅行中に吐き気に悩まされて仕方なかった。食べたくない。
朝が酷い。吐き気で目覚める。
最初は飛行機に酔ったのかと思った。着陸の際に何回も旋回したのだ。眼がクラクラした。
船酔いも耐えられないが、飛行機の旋回はキツイ。乗客の数人は嘔吐していた。
それからずっと吐き気が続いている。胃薬を飲んでも変わらない。
買い物どころではなかった。睡魔と吐き気に犯され続けた、散々だった。

イヤな予感がする。もう予感ではない。実感だ。
旅行があるからと生理をずらす薬を飲んでいた。もう、なっていてもおかしくない。でも、
生理にはならない。
カレンダーを見つめ、孝祐に逢った日を蛍光ペンで塗る。
計算する。わからない・・・

産婦人科へ行った。尿検査をされた。最後の生理日を訊かれた。
事務的な質問に、紫芙子はそれを心の中で反芻してから答える。
「・・・週目です。予定日は来年の・・・」
遠くで医師の声が響く。紫芙子の耳には届かない。言っている意味が飲み込めない。
眼の前が真っ白だ。孝祐の顔が浮かぶ。怒鳴られる、罵られる、殴られる。
ガタガタと身体が震え、歯がカチカチとぶつかる。紫芙子は必死にそれを止めようと、口
に手を当てる。
が、その手の指先は小刻みに揺れるだけだ。

「大丈夫ですか?」
うなずくしか出来ない。声が出せない。
何と言ったらよいのだろう?堕胎することは、もう決定している。
孝祐は結婚している。紫芙子はただのおもちゃだ。セックスするだけの相手。

父親のような包容力に惹かれたのかも知れない。仕事に対する姿勢に感動したのかも
知れない。
何となく、そういう関係になっていた。
が、プライベートの孝祐は最悪だった。自分の思い通りにいかないと怒鳴り散らす。
紫芙子は何度か殴られた。白いものも黒と言うしかない。
その都度、父親を思い出す。「女なんて」が口癖だった。紫芙子が産まれた時、母親
は怒鳴られたらしい。「女なんて必要ない」と。
だから、母は男の子が生まれるまで、産み続けるしかなかった。
やっとできた弟を、父親は可愛がった。溺愛。最優先。女姉妹には、全く関心を持た
なかったが、自分の考えと違う事を一言でも口にすると、物が飛んできた。
「手で殴ると、手が痛くなる」からと、母親を分厚い雑誌の角で何度も殴っていた。
紫芙子の妹達は、そんな父親が嫌で高校を卒業すると、さっさと家を出て行ってしまっ
た。
紫芙子は、それができなかった。母親が哀れに思えていたから。

孝祐も同じような感じだ。
仕事で疲れていたりすると、紫芙子に罵声を浴びせる。
「女なんて生き物は馬鹿なだけだ」と口癖のように言っている。
それなのに、紫芙子は男から逃げることができないでいた。逃げたら、必ず見つけら
れて紫芙子を軟禁でもしそうだ。紫芙子の気持ちも複雑だった。
嫌いで疎ましく、恐ろしいと思う反面、疲れている孝祐を見ると放っておくことができない。

孝祐は身勝手だ。結婚している。子供もいて、何が不満なのだろう?
浮気をしていながら、妻の浮気は決して許さない。女は浮気はしてはいけない生き物と信じている。
自分の浮気相手も女だという事に気付いていない。
当然、避妊にはかなり神経質だった。
危険日はしない。危険日でなくなったら、避妊してセックスする。それが当然だ。

ところが1回だけ、避妊せずにセックスした。孝祐がいつもよりも苛立っていた。
生理が終って3日経っていた。排卵日まで数日。でも危険日に含まれる。
紫芙子は、拒んだ。けれど、殆ど強姦に近いようにされた。
「ゴムつけて」頼んだ。
「外に出すよ、終ったばかりだろ。大丈夫だよ」
けれど、孝祐は中出しした。そして、自分だけ満足した。
陵辱だ、と思った。

病院からの帰り道、疲れ果てた紫芙子は、公園のベンチに腰掛けた。
噴水の水が宙へ昇り、虹が見える。
子供がたくさん遊んでいる。平日の昼間はこんなにも子供達の声が、聞こえているのか。
すぐ傍に女の子がやって来た。ニコリと笑うと
「これ、あげる」と、紫芙子に飴を一つ手渡した。柔らかく小さな手が紫芙子の掌の中
で、開かれる。
紅葉のよう、というのは本当だ。可愛らしい。子供は、何の理由もなく可愛い。
紫芙子の眼から涙が溢れる。大きな丸い水の塊がポトリと零れたら、止まらなくなった。
「どうしたの?」
女の子が心配そうに、紫芙子の顔を覗き込む。
紫芙子は、首を横に振る。
「なんでもないよ」「ホント?でも、泣いてるよ」
「大丈夫。それより、ママが心配しない?」
「うん・・・おねえちゃん、ホントにだいじょうぶ?」
もう、これ以上は限界だ。涙が止まらない。女の子の笑顔が辛い。
自分は、何と最低な人間だろう。こんなにも愛らしい子供の生命を、一方的に絶ってし
まう。
子供はその存在だけで愛くるしい。
罪人だ。だから、この悲しみも苦しさも全て罰。自分は罪を犯したのだから罰を受けな
ければならない。贖罪。
必死に笑顔を作った。
「・・飴、ありがとう」
女の子は心配そうに何度も振り返りながら、去って行った。紫芙子はその後姿にずっと
手を振り続けた。

その夜、紫芙子はテレビのボリュームを大きくしてひたすら泣き続けた。
泣いても泣いても、悲しみが押し寄せてくる。海の波が途絶えないように。
見ることのできない、吾が子の手の温かさを思って泣いた。
涙は止まらない。少し落ち着くと、再び大粒の涙が頬を伝う。

妊娠の話をすると、孝祐は舌打ちした。紫芙子を蔑むように見つめた。
言い訳の言葉を、これでもかという位並べ立てた。
愚かに見えた。こんな男のことを一瞬でも好きだと思った自分はもっと愚かだ。
紫芙子は、自分の下腹部に手をあてる。ここに命がある。
決して望まれて出来たわけではない。けれども、紫芙子にとってはかけがえのない生命。
一人ででも、産んで育てたい。

孝祐は紫芙子に言う。
「オレはゴムつけるって、言ったじゃないか」
違う、私がつけてと頼んだのだ。
「外に出せば大丈夫だし、まだ危険日じゃないって言っただろ」
それも違う。孝祐が言ったのだ。
紫芙子は孝祐に冷たい視線を投げつける。孝祐は一瞬ひるんだ。
「金出すから、今回だけは堕ろしてくれよ。頼むよ」
急に優しい口調に変わった。紫芙子の中から、サーっと冷たい物が流れる。
何も言い返さない紫芙子に、孝祐は勝手に納得して、10万円を渡す。
そして、そそくさと紫芙子の部屋を出て行った。
その後姿に対して、紫芙子は殴りかかりたい衝動に駆られた。殺してやりたい。
酷い、酷過ぎる。腸が煮えくり返るというのはこういうことか?
孝祐は自分の言った事を何一つ覚えていなかった。
覚えていたのは、紫芙子とセックスしたことだけだ。
その夜、紫芙子は孝祐への怒りと身籠った生命への申し訳なさに、一睡も出来ず泣き
明かした。

ひとりで産婦人科へ行った。孝祐にサインしてもらった紙と共に。
堕胎手術の承諾用紙に、孝祐は偽名を書いた。

薄いブルーの布に着替える。狭い部屋へ入る。ベッドが1台と、冷たい銀色をした金属
の器具が置かれている。
ベッドへ横になる。脚を開き、スペキュラムが挿入される。ガチャガチャと金属同士が触
れ合う音がする。腕に麻酔の注射をされる。
「いち、に、さん・・・」
医師の声の後に同じに数を数える。

瞼が重い。呂律が廻らない。目の前に薄い紫の霞がかかったようになる。
紫芙子は、独りで森の中へと歩いてゆく。ふと立ち止まり振り替えると、赤ん坊の泣き
声が聞こえる。
まだ、見ぬ命。決して産み落とされぬ命。紫芙子は、その泣き声を探してさ迷い歩く。
茨の中で、脚は傷だらけだ。それでも、紫芙子は歩き続ける。泣きながら探し続ける。
気付くと紫芙子は大きな手で海の底に沈められている。息が出来ずに、自分の口から
ぼこぼこと二酸化炭素の泡が出てくる。もがき続ける紫芙子の耳に赤ん坊の泣き声だ
けが残っている。
不気味な雲が覆う夜の赤い月の中に紫芙子はいる。冷たいごつごつの路をただ歩いて
いる。
そうして、また、森の中へと迷い込む。
暗い湖がある。覗き込むと湖面には般若の顔をした紫芙子が映っている。自分は鬼に
なったのだ。
紫芙子の中には、苦しみと罪悪感で満ち満ちている。
紫芙子は、贖罪という吾が子を身籠った。それは産み落とされることはなく、紫芙子
が生きている限り紫芙子のこころの中で成長する。

数日後、紫芙子は睡眠薬を飲み、バスタブに湯を張って服を着たまま中に入った。
手首をカッターナイフで切りつけた。
湯の中に、ゆらゆらと紅い血が流れる。体温が上昇しているせいか、出血の量は多い。
死に切れるとは思っていない。バスタブの中が赤い河へと変わる。
睡眠薬は大量に服用すれば、促吐剤が入っているために嘔吐する。けれど、発見が遅
れれば遅れるほど、植物状態に近づく。
連絡の取れなくなったことを心配した友人に、すぐに発見された。救急病院へ搬送さ
れた。
胃洗浄をしているのは、孝祐だ。孝祐は救命救急の医師だ。
うつろな意識の中で、紫芙子は笑った。子供の命は簡単に堕ろせと言うのに、私の命
を救おうと躍起になっている。
これが滑稽でなくて何だろう?醜態をさらけ出しながら、紫芙子は孝祐を睨んだ。
孝祐がそれに気付いたのか否かは不明だ。

紫芙子の身体は何不自由なく、回復した。自分を呪った。植物状態になった方が余程
楽だった。
気付くと、紫芙子は般若心経をぶつぶつと呟いている。聖書を読みふける。
とにかく、いつもこころが痛かった。もやもやしていて苦しい。耐え切れない。
些細な事で涙するようになった。五感が過敏になった。

いつしか紫芙子は子供が苦手になった。子供の声が聞こえるだけで、動悸がする。涙
が溢れる。訳もなく辛くなり、眼を背けたくなる。
それなのに、子供が紫芙子に近寄ってきて笑いかける。
その笑顔は、あの日に飴をくれた女の子の笑顔に変わる。
紫芙子は、その女の子にいつまでも「ばいばい」と囁くように言い続けている。


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