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あれから 
あれは高校3年の春だった。
生きている意味がわからなかった。とにかく死んでしまいたかった。

風邪を引いたと嘘を言って、学校を早退した。
家には必ず祖父母がいる。だから、裏口からこっそりと入って、着替えてまた外へと出た。

海が見たかった。最期は海でとずっと前から、生まれた時から決めていた感じがして、とりあえず電車へ乗り込んだ。海へと連れて行ってくれる電車に。
昼間の電車は空いていて、朝の混雑が嘘のようだった。
子供が通路ではしゃいでいる。兄弟なのだろうか?少し大きい女の子が、男の子に何かを渡していた。何だったのかは、結局わからない。
昼過ぎの春の日差しで、電車の中はぬるま湯のように心地よかった。そのまま眠ってしまった。

眼が覚めたら、終点に近い駅だ。
終点で降りて、駅員に一番近い海へ行ける路線を尋ねた。特に訝しがる訳でもなく乗り換えホームを教えてくれた。

喉が乾いていたから、缶ジュースを買った。
それを持って、電車へ乗った。再び睡魔が襲ってきた。まどろみの間に何度も夢をみた。
まだ幼い頃の、何もかもが新鮮で楽しい時期だった夢。

何時間かかっただろうか?空は夕陽が沈み、濃い紫に変化していた。
美しかった。夕陽以上に、この短い時間だけ見られる空の色が今でも好きだ。

どうやって夜を越したのかは思い出せない。
気付いた時には、太陽は昇っていた。春とはいえ、朝晩は寒い。
薄手のコートは役に立たなかった。
足先が氷のように冷たくなっていた。
早く行かないと・・・そうに感じて、とにかく海辺へ向けて歩き出した。

誰も海辺にはいなかった。
潮風が吹いている。潮の香り。そう、潮の香りがした。
適当な場所に座り込むと、煙草を吸った。
どうして海の砂は、あんなにさらさらしていて、掌からすぐに零れ落ちてしまうのだろう?
この命も、こんなにあっけなく零れてほしい。

2本を目に火を点けて、すぐに消した。
グズグズなんてしていられない。早く海へと行かないといけない。
このために、ここに来たのだから。

靴は履いたままで、ゆっくりと海へ向かって歩き出した。
怖いなんて思わなかった。靴の中に海水が入ってくる。足が重い。
それでも構わずに進む。海が身体を包んでくれる。潮の香りが強くなった。
脚も重かった。履いていたジーンズがいつもの何倍にも厚い物に思えた。
もう少し、もう少し。
足に何かが絡まりつく。それでも歩みは止まらない。
歩く速度が急激に落ちた。海の圧力は相当なものだった。
歩幅が小さくなる。思うように進めない。
けれども、一歩ずつ確実に海の中へ入っている。
安堵の涙が溢れてくる。温かい涙。
どんなに優しい言葉をかけられても、これ程までに温かい涙は、もう二度と流すことはない。

身体は少しずつ、でも確実に海が飲み込んでくれる。
胸より少し上、あとちょっとで顎に波がかかりそうな瞬間。
腕を掴まれた。そして、平手が頬に2回飛んできた。
抵抗した。叫んだ。
「死なせて、死なせて」と何度も何度もわめいた。
いくら抗っても、その腕から逃れることはできなかった。
そこで、意識を失った。

助けられたと思った時には、漁師の集まる小さな小屋だった。
そこで、毛布を何枚もかけられて、横たわっていた。

死ねなかった。死ぬことは簡単だと思っていたのに。
助けてくれる人がいるということを知らなかった。
見ず知らずの人間が、こんな無意味な命を「大切にしろ!」と怒鳴っている。

今も生きている。
あれから、もう25年・・・


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【実話だろうか】 by GARAM


久々に感動を覚えた
しかしその感動は一瞬として消え
僕も死ねないのだと諦めた
生きたくてもそれができない人もいるのに と
僕は今日も夕陽を見送ることしかできなかった

【Re: 実話だろうか】 by 旅人


こんにちは。
コメントありがとうございます。
感動していただいたようで、嬉しい限りです。
実話だったら、怖いですね。ご想像にお任せします。



<<不思議 *HOME 海の中>>
COMMENT

【実話だろうか】
久々に感動を覚えた
しかしその感動は一瞬として消え
僕も死ねないのだと諦めた
生きたくてもそれができない人もいるのに と
僕は今日も夕陽を見送ることしかできなかった
2010/06/27(日) 11:23:56 | URL | GARAM #- [ Edit ]
【Re: 実話だろうか】
こんにちは。
コメントありがとうございます。
感動していただいたようで、嬉しい限りです。
実話だったら、怖いですね。ご想像にお任せします。
2010/07/01(木) 18:04:01 | URL | 旅人 #- [ Edit ]


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